MMSEの原著を読んでみる

認知機能障害といえばMMSE、と言うほど、認知症に限らず認知機能を評価する場面では、臨床・研究問わずMMSEが使われます。その原典となるのが、1975年にJ Psychiatr Resから発表された、次の論文です。 "Mini-mental state": A practical method for grading the cognitive state of patients for the cliniciannull どれくらい使われているか、Google Scholarで被引用数を見てみると、 なんと被引用数79292!!(2019年5月時点) ここまで汎用されているMMSE、臨床でも「認知症のスクリーニング検査」としてそこら中で日々使われているわけですが、発表から44年が経ち、きちんと原典を読んで使っている方は少ないかと思いますし、どのような対象からどのように認知機能障害を抽出することを目的とした検査なのか正確に把握している人も意外といないのでは、と日常臨床で感じています。 そこで今回はこの原典をぼっちで見てみたいと思います。 目次 背景:高齢者の認知機能を短時間で評価したい MMSEの内容 方法:対象に認知症は意外と少ない 結果:本論文の認知症患者はMMSE10点程度とかなり進行期 読んでみての雑感 スポンサーリンク …

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2019年7月院内全面禁煙化、その時オランザピンが・・・-喫煙と薬物の相互作用

受動喫煙対策を強める改正健康増進法に基づき、2019年7月1日より「学校や病院、行政機関などは屋内を全面禁煙とし、敷地内の屋外でも喫煙スペースであることを示す標識などを立てた場所でのみ喫煙可能」となる予定です。 これまで敷地内禁煙の病院が増えたことで、一部の精神科病院は「喫煙可能な入院先」として一部の患者さんから圧倒的なニーズがあったわけですが(私の勤める病院もその一つです)、そのメリットが完全になくなります。 私のような雇われ医師には関係ありませんが、これを売りにしている病院の経営者には悩ましい問題かもしれません。 ただ、経営的な側面はともかく、これまで普通に喫煙できていた病棟で突然これまでのように自由に喫煙できなくなる多くのヘビースモーカー入院患者たちの混乱を考えると、私のような末端の精神科医にとっても頭を悩ませる問題になります。 さらにさらに、実は私たちの頭を悩ませるのは、何も問題は喫煙ができなくなることそのものだけではないのです。 それが、喫煙と薬物の相互作用です。 目次 とりあえずジプレキサの添付文書を見よ 喫煙と薬物の相互作用について具体例を探してみる 禁煙はオランザピンに実際にどれくらい影響がある?減薬すべき? オランザピン以外の喫煙と相互作用のある薬剤は? あけましておめでとうございます! スポンサーリンク とりあえずジプレキサの添付文書を見…

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スキンテア-褥瘡の危険因子に追加

最近、高齢者の診療をしていて、時々気になるのがスキンテアです。スキンテアは日本語で皮膚裂傷と訳され、摩擦やズレによって皮膚が裂けて生じる、真皮深層までの損傷のことを言います。例えば、四肢がベッド柵でこすれた際に、皮膚が裂けてずれが生じたりすることです。 スキンテアは褥瘡と似ているようですが、異なります。褥瘡はあくまで持続した圧迫によって生じた血流障害による酸素や栄養の供給不足の結果起こる、皮膚や皮下組織の損傷です。スキンテアは高齢による皮膚の乾燥など様々な要因で脆弱になった皮膚が、わずかな摩擦などの外力によってずれて裂けたり剥がれたりする現象です。 脆弱になった皮膚は、ベッド柵の隙間や車椅子のフットレスト、アームレストで擦れたり、移乗などの介助の際に腕を掴む、などの行為でかかる外力によって、スキンテアを起こすことがあり、予防のためにベッドや車椅子、あるいは患者さんの四肢にカバーを装着するなどの外力からの保護、脆弱性を改善するための栄養管理、皮膚の保湿などのスキンケアによって予防、治療を行うことが重要になります。 特に発生しやすい状況は、テープを剥離したとき、転倒したとき、ベッド柵にぶつけたとき、車椅子移動介助時、入浴・清拭などの清潔ケア時など、高齢者医療の現場でよくある場面が挙げられています。 スポンサーリンク スキンテアの基礎的な事項は日本創傷・オストミー・失禁管理学会がベストプラクティス スキン-テア(皮膚裂傷)の予防と…

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トレリーフ「レビー小体型認知症に伴うパーキンソニズム」への追加承認-どんなときに使う?

2018/7/2より、トレリーフOD錠25mgが、「レビー小体型認知症に伴うパーキンソニズム(レボドパ含有製剤を使用してもパーキンソニズムが残存する場合)」の効能・効果の追加承認を受けたそうです。 大日本住友製薬のNews Release 元々パーキンソン病(PD)に対して効能・効果のあった薬ですが、レビー小体型認知症(DLB)で使用する場合のポイントを簡単にまとめたいと思います。 目次 ゾニサミドとは:元々抗てんかん薬 パーキンソニズムに対する効果:振戦とwearing-off DLBへの適応:25mgだけ 副作用は抗てんかん薬ぽい 薬価が・・・ 関連記事、参考文献 スポンサーリンク ゾニサミドとは:元々抗てんかん薬 トレリーフは一般名ゾニサミドという薬で、元々はエクセグランという商品名の先発品で抗てんかん薬として販売されていました。 てんかんに対するゾニサミドは、成人の場合は内服開始当初は100-200mg/dayで開始し、1-2週間ごとに増量して200-400mg/dayを維持容量とする、成人の最高1日量が600mgの薬です。おもに部分発作に対して第二選択薬として用いられる事がある薬です。 パーキンソニズムに対する効果:振戦とwearing-off ゾニサミドがPD治療に用いられるようになったのは、けいれん発作を偶然起こ…

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過剰に処方される抗認知症薬-原因を探り、対策を考える

前回(抗認知症薬は効かないのか?)は、あまり効果が実感しにくい抗認知症薬も、効果がしっかりある人もいるので、フランスで医療保険から外れると心配だなぁ、という、私が抗認知症薬肯定の立場にいることを表した感じの内容でした。 ただ、現状の日本での抗認知症薬の処方のされ方の実態に肯定的か、というと、むしろ否定的です。その理由は、どう考えても不適切な状況で処方されている例が多いからです。そんな気持ちから、前回のツイートの後、次のようなツイートをした所、多くの反応をいただきました。 抗認知症薬の処方過剰問題はいくつかの要因が重なっていると思います。①ADと誤診②認知症なら何でも抗認知症薬、という誤用③DLB等他の疾患ではない認知症をADと診断④副作用モニタリング不足⑤抗認知症薬の使用目的の不明瞭化⑥患者、家族の内服希望パッと思い浮かぶだけでこれくらいはある。— HJKKS (@MRLH_gon) 2018年6月7日 そんな、不適切な状況での抗認知症薬の処方について、どんな例があるのか、思いつくままにあげてみたいと思います。 *できる限り、エビデンスや自身の経験、今回twitterで出会った意見の中でも現実的と思われるものに則って、現実に即したことを書こうと思いますが、匿名の医師の無責任な個人的見解という範疇を出ないことも事実かと思いますので、ご注意いただければ幸いです。 目次:抗認知症薬が不適切に処方されるケース 適応でないケースへの処方 …

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抗認知症薬は効かないのか?

先日、twitterで何気なくした引用リツイートに、意外といいねとRTをいただきまして、認知症の薬物療法は本当に多くの課題を抱えているなぁと感じました。 共感いただいたり、ご指摘をいただいたり、なるほどと思わされることがあったり、twitterって結構勉強になりますね(笑) その引用リツイートがこんな内容。 抗認知症薬はAD、DLBに適応があるものの、多くの方で余り効果が感じられず、副作用のリスクがあるのは事実。一方で若年性ADやDLBの人など、抗認知症薬が劇的に効き、生活そのものが根本的に改善される方がいるのも事実。後者の方の不利益にならない事を願います。 https://t.co/AIof2ewX0Y— HJKKS (@MRLH_gon) 2018年6月6日 せっかく勉強になったので、そのことをまとめてみたいと思います。 *できる限り、エビデンスや自身の経験、今回twitterで出会った意見の中でも現実的と思われるものに則って、現実に即したことを書こうと思いますが、匿名の医師の無責任な個人的見解という範疇を出ないことも事実かと思いますので、ご注意いただければ幸いです。 目次 抗認知症薬とは フランスで抗認知症薬が医療保険から外れる 抗認知症薬の効果は小さいのか 抗認知症薬が劇的に効く人もいる 顕著に効く方が比較的多い若年性ADとDLB…

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BPSDケアプログラム:非薬物的対応のエビデンス

日経メディカルで興味深い記事を見つけました。「BPSDケアプログラムの効果をRCTで証明」とのことです。 問題行動の背景を見える化、ケア計画を この記事の後半で、オンラインシステムを利用した「BPSDケアプログラム」について紹介されています。 認知症の行動・心理症状(BPSD)は、認知障害以上に患者本人のQOLや介護負担に影響することが知られています。現時点で多くの認知症患者さんで改善が見込めない認知障害に対し、BPSDは脳の障害という器質的な要因だけでなく、環境要因によって生じている側面が大きいため、認知症診療において治療ターゲットとなる症状です。 スポンサードリンク BPSDの治療は、原則的に非薬物的対応(ケアの工夫だけでなく、音楽療法や回想法、認知行動療法などの非薬物治療を含む)を優先し、それでも効果がない場合は薬物治療を行う、と、認知症関連のガイドラインでも書かれていますが、非薬物的対応に関しての確固たる情報はあまりありません。というのも、特定の非薬物治療に関するエビデンスは非常に乏しく、「ケアの工夫」に至っては、各患者さんがBPSDを引き起こす原因は様々なため、どのような工夫をするかは千差万別で、なかなか個別のケア方法を検証するstudyができないからです。 実際に、BPSDに対するガイドラインとして、「かかりつけ医のためのBPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン(第2版)」が広まりましたが、これは…

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認知症への理解の低さはこんなもの

今日は研究デザインのことですごく基本的なことを調べようと思い、いくつかそれっぽい文献を読んでいたのですが、その中の2016年の某雑誌に掲載されていた、公衆衛生学の先生の文献での下記の記載を見て、愕然。 「(認知症発症というアウトカムの要因を調べたいコホート研究で)研究を質問票のみでする場合、認知症発症診断テストMMSEの質問項目に入れておけば、認知症発症を調べる事ができます。」 絶句。 まず、そもそも日本語としてなんかおかしい、ということは眼を瞑りましょう。そんな瑣末なことより、です。 MMSEに認知症発症診断テスト、などという二つ名が付いているのを初めて見ました。 私はMMSE(Mini-Mental State Examination)は非常に優れた検査だと思っています。認知症の方に限らず、様々な疾患で、精神状態(Mental State)を評価するにあたり、多角的な認知機能をベッドサイドで簡単に評価できるため、頻繁に実施しています。各項目でどのような反応をするか、という定性的な見方をすると、それこそ、単純に認知症というだけでなく、アルツハイマー型認知症なのか、レビー小体型認知症なのか、などの背景疾患を想定するのにも用いる事ができます。 一方で、この「認知症発症診断テスト」という言い方は、おそらく「何点以下なら認知症、それ以上なら認知症じゃない」という結果が出せるテスト、というニュアンスで書いているのでしょう。実際に、研究でMMSEを入れておけば認知症発…

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進行性核上性麻痺(PSP)の新診断基準2017

2017年になり、レビー小体型認知症(DLB)の国際診断基準第3版が発表されたのは各方面でよくアナウンスされていますが、パーキンソン関連疾患である進行性核上性麻痺(PSP)の診断基準も実は2017年に入り、新たに発表されているのは、あまり耳にすることはありません。有病率の違いのせいなのでしょうが、パーキンソン症候群を伴う認知症性疾患として、DLBとの鑑別疾患として挙がる病気として重要な病気です。今日はそんなPSPの診断基準について、2017年に発表された臨床診断基準についての次の論文を見てみます。 Höglinger GU et al. Clinical diagnosis of progressive supranuclear palsy: The movement disorder society criteria. Mov Disord. 2017 Jun;32(6):853-864. 目次 PSPの典型像 基本的特徴(必須の基準) 中核的臨床特徴 支持的特徴 PSPの診断 多様な臨床像を取り込んだものの 関連記事・参考文献 スポンサーリンク PSPの典型像 PSPの典型像は、これまで広く用いられてきたNINDS-SPSPの診断基準や、難病指定センターで示されている主要症候を満たすものになります。つまり、 垂直方向に眼球運動が障害される…

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レム睡眠行動異常症(RBD)の認知症診療における重要性-DLB診断基準改訂を受けて

先日、新しいレビー小体型認知症(DLB)の診断基準が発表されたことを書きました。その中で、レム睡眠行動異常症(REM sleep behavior disorder: RBD)が中核的特徴の一つに繰り上がったことを紹介しました。 今回はそんなRBDについて、認知症診療においてどのようなことに注意すべきか紹介します。 目次 RBDとは?:レム期に認めるパラソムニア DLB診断への影響:認知症+RBD=DLB PSGを考慮するためのスクリーニングは? 認知症診療における睡眠障害評価の重要性 関連記事 スポンサードリンク RBDとは?:レム期に認めるパラソムニア RBDは、多くは恐怖などの強い情動を伴うような鮮明な夢と共に、荒々しい行動異常が出現する、レム期に認めるパラソムニアの一種です。通常、レム睡眠中は骨格筋の筋緊張が低下しているため、体の動きはあまりおこらないのが一般的ですが、この筋緊張を抑制する働きが障害されることで、睡眠中に手足を動かしたり、異常な動作を起こしたりする病気です。 これまで、パーキンソン病やレビー小体型認知症などのレビー小体病、多系統萎縮症といった、シヌクレインという物質の異常で生じる病気で合併率が高いことから、睡眠専門医だけでなく、神経内科医や精神科医にも注目されていた疾患です。 以下に診断基準を挙げます。 睡眠関連疾患国際分類第2版(200…

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