認知症への理解の低さはこんなもの

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今日は研究デザインのことですごく基本的なことを調べようと思い、いくつかそれっぽい文献を読んでいたのですが、その中の2016年の某雑誌に掲載されていた、公衆衛生学の先生の文献での下記の記載を見て、愕然。

(認知症発症というアウトカムの要因を調べたいコホート研究で)研究を質問票のみでする場合、認知症発症診断テストMMSEの質問項目に入れておけば、認知症発症を調べる事ができます。

絶句。

まず、そもそも日本語としてなんかおかしい、ということは眼を瞑りましょう。そんな瑣末なことより、です。

MMSEに認知症発症診断テスト、などという二つ名が付いているのを初めて見ました。

私はMMSE(Mini-Mental State Examination)は非常に優れた検査だと思っています。認知症の方に限らず、様々な疾患で、精神状態(Mental State)を評価するにあたり、多角的な認知機能をベッドサイドで簡単に評価できるため、頻繁に実施しています。各項目でどのような反応をするか、という定性的な見方をすると、それこそ、単純に認知症というだけでなく、アルツハイマー型認知症なのか、レビー小体型認知症なのか、などの背景疾患を想定するのにも用いる事ができます。

一方で、この「認知症発症診断テスト」という言い方は、おそらく「何点以下なら認知症、それ以上なら認知症じゃない」という結果が出せるテスト、というニュアンスで書いているのでしょう。実際に、研究でMMSEを入れておけば認知症発症を調べる事ができる、と書いているわけですし。

これは大きな間違いです。認知症は検査の得点で診断するものではなく、(ざっくばらんにいうと)認知機能障害という臨床症状の影響で日常生活に支障を及ぼしている状態を表すもので、検査の結果はその認知機能障害の存在を示す助けになるものです。

更に言えば、MMSEは認知機能障害のスクリーニング検査です。仮にある得点をカットオフとして(有名なのは23/24点でのカットオフ)MMSEを利用するにしても、そこから言えるのは、「このカットオフを下回れば、認知機能障害がある可能性が高い」というスクリーニングに用いることができる、というものです。

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更に同じ文献を読み進めると・・・

認知症発症の同定指標をMRIで診断したり、アミロイドβやタウ蛋白(認知症発症の原因物質)濃度の測定となると

・・・・

まず、そもそも日本語としてなんかおかs(以下略)

認知症は認知機能障害という臨床症状の影響で日常生活に支障を及ぼs(以下略)

アルツハイマー病をはじめとした変性性認知症では、各疾患に特長的な萎縮パターンを持つ事が多いため、MRIの結果が認知症の原因疾患推定に役立ちます。しかし、萎縮があるから認知症なわけじゃありません!

アミロイドβやタウ蛋白は、髄液中での濃度の低下や上昇がアルツハイマー病理の存在を示唆する物質です。しかし、(アルツハイマー病理があることは高い精度で示すことはできますが)認知症を発症しているかどうかは別問題です!アルツハイマー病理を持っていても認知症を発症していない、ということはままあります。昨今のpreclinical ADなどの概念を理解していれば、当たり前のことだと思うのですが・・・。

今日は全然違うことを調べるために色々文献を検索していたのですが、高齢社会で認知症が社会的な問題になるなか、認知症への理解の低さはこんなもので、こんなレベルの記載が平気で医薬系の雑誌に未だに載っているのが現実なんだよなぁと感じました。


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