2019年7月院内全面禁煙化、その時オランザピンが・・・-喫煙と薬物の相互作用

受動喫煙対策を強める改正健康増進法に基づき、2019年7月1日より「学校や病院、行政機関などは屋内を全面禁煙とし、敷地内の屋外でも喫煙スペースであることを示す標識などを立てた場所でのみ喫煙可能」となる予定です。

これまで敷地内禁煙の病院が増えたことで、一部の精神科病院は「喫煙可能な入院先」として一部の患者さんから圧倒的なニーズがあったわけですが(私の勤める病院もその一つです)、そのメリットが完全になくなります。

私のような雇われ医師には関係ありませんが、これを売りにしている病院の経営者には悩ましい問題かもしれません。


ただ、経営的な側面はともかく、これまで普通に喫煙できていた病棟で突然これまでのように自由に喫煙できなくなる多くのヘビースモーカー入院患者たちの混乱を考えると、私のような末端の精神科医にとっても頭を悩ませる問題になります。

さらにさらに、実は私たちの頭を悩ませるのは、何も問題は喫煙ができなくなることそのものだけではないのです。

それが、喫煙と薬物の相互作用です。


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とりあえずジプレキサの添付文書を見よ

ジプレキサの添付文書の下の方、「併用注意」項目の最後を見て見ましょう。

Olz_smoking_PMDA.gif

このように、CYP1A2誘導により、喫煙しているとジプレキサ(一般名オランザピン)の血中濃度が下がるわけです。

先日他の先生と話していて、意外とこのことが知られていないということに気づきました。

個人的にはオランザピンは非常に優秀な薬と思っています。

糖尿病で禁忌だとか、鎮静が強くかかりすぎるだとか、使い勝手が悪いところは当然あります。

しかし、特に興奮が強い患者さんにはその鎮静がうまくハマる部分がありますし、1日1回服用でいいので、不眠が強い方なんかに眠前服薬とすると不眠解消にも繋がり、良好なアドヒアランスに繋がる事もあります。

そのため、私が担当している入院患者さんでも少なくない数が服用されています。

ただ、喫煙で血中濃度が下がるということは、元々ヘビースモーカーだった人にオランザピンを投与していた場合、2019年7月になって急に禁煙(もしくは敷地内の屋外の決められた場所でのみ吸えるため喫煙頻度が減る)となってオランザピンの血中濃度が一気に上がってしまったら、オランザピンを投与されている患者さんが一斉に突然過鎮静になったり錐体外路症状が出たり、となるかもしれないと考えると、かなり怖いです。

これはなんとかしないといけません。

喫煙と薬物の相互作用について具体例を探してみる

喫煙者が突然非喫煙者となった場合、具体的にどの程度影響が出るのでしょう。

喫煙本数の変化量や内服量により異なるでしょうから、個別に対応していくしかありませんが、日本医事新報がこんな記事を出していました。

CYP1A2で代謝される医薬品+喫煙(たばこ)[ドクターのための薬物相互作用とマネジメント(9)]|Web医事新報|日本医事新報社

ここでは統合失調症患者がオランザピン7.5mg/日の内服で入院中は喫煙が4本/日と制限されていた場合、症状は落ち着いていたが、退院後80本/日に喫煙量が増えたところ、内服遵守していたにも関わらず精神病症状が再燃したとのことです。

7月を迎えるにあたり、懸念しているのは逆方向の変化ですが、血中濃度の上昇に伴い、副作用が現れる可能性が十分考えられます。

実際に同記事では、ヘビースモーカーが突然禁煙したことに伴いクロザピンの血中濃度が上昇し、副作用が出現した症例についても言及しています。クロザピンの副作用が現れるとなるとかなり心配になります。

もちろんジプレキサの販売元のLillyも、喫煙とジプレキサの血中濃度について情報提供しています。

禁煙はオランザピンに実際にどれくらい影響がある?減薬すべき?

ということで、pubmedで禁煙とオランザピンに関する論文を検索してみました。とりあえず探したい論文はこんな感じの研究。

P:schizophrenia, olanzapine(オランザピンを投与されている統合失調症患者)
E:smoking cessation(禁煙)


これらのワードでPubmed Clinical Queriesで検索をかけて見ると、次の論文が引っかかりました。

Impact of tobacco smoking cessation on stable clozapine or olanzapine treatment. - PubMed - NCBI
本論文ではMEDLINEとEMBASEで"smoking, tobacco, cigarette, cannabis, smoking cessation, cytochrome P450, antipsychotic, clozapine, and olanzapine"という検索ワードで検索した英語論文の中から、禁煙後の臨床症状をアウトカムとしている論文を抽出し、レビューしています。

その結果、

喫煙者は非喫煙者に比べ
  • オランザピンのクリアランスが速い
  • クロザピンとノルクロザピンの血中濃度が低い
  • 喫煙者では非喫煙者に比べてより多い投与量が必要
  • 禁煙後に血中濃度上昇を伴い有害事象(精神症状の悪化、傾眠、過唾液分泌、極度の疲労、錐体外路系の影響、けいれん)を認めた症例報告が複数ある
  • 禁煙前の血中濃度にするために30-40%の減薬を要した

という事があげられています。

先ほども述べたように、喫煙本数の変化量や元々の内服量により、どの程度影響があるかは違うでしょうから、個別に検討する必要がありますが、場合によっては30-40%減薬を一つの目安にすべきかもしれません。

結構な減量で少しためらいます。

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オランザピン以外の喫煙と相互作用のある薬剤は?

当然、喫煙と相互作用のある薬剤はオランザピンだけではありません。

上述のクロザピンもそうですが、他にも以下のような薬剤には注意が必要との事です。

日本語の文献で次のようなものを見つけました。

薬物相互作用 (9―喫煙と薬の相互作用)
ひとまず向精神薬に関しては、

オランザピン、クロザピン、クロルプロマジン、ジアゼパムは
禁煙後の効果増強、副作用出現に注意

と言えそうですが、その他にもインスリンやテオフィリン、アセトアミノフェンなど、身体合併症治療で精神科病棟でも頻繁に用いる薬も影響を受けるようなので、十分注意が必要です。

個人的には病院内の全面禁煙そのものには大賛成なのですが、病棟内にモクモクと煙が立ち込める喫煙所を設けている精神科病院は多く、ヘビースモーカーな入院患者さんたちに与える影響を考えると、2019年7月を迎えるにあたり、これらの薬の処方に関してもなんらかの対応策を検討しておいた方が良いでしょう。

それこそ、非喫煙者でも受動喫煙が抑制される事でなんらかの影響が出るかもしれません。

あけましておめでとうございます。

というわけで、2019年最初のブログ投稿は、今年一部の精神科病院が大きな影響を受けそうな「院内禁煙」に関連した内容にしてみました。

あと半年、薬剤部と協力して、病院をあげて対応した方がいい可能性もありますね。

学校や病院などの屋内 来年7月から完全禁煙へ | 注目記事 | NHK政治マガジン
昨年は大学病院から地域の病院に移り、ブログの投稿内容が研究に関する小ネタから臨床に関する話題に移り変わってきたように思いますが、どちらの話題もこれからも綴りながら、自分の知識の整理につなげていければと思っています。

拙い&更新頻度の少ないブログですが、よろしくお願いいたします。


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