MMSEの原著を読んでみる

認知機能障害といえばMMSE、と言うほど、認知症に限らず認知機能を評価する場面では、臨床・研究問わずMMSEが使われます。その原典となるのが、1975年にJ Psychiatr Resから発表された、次の論文です。

"Mini-mental state": A practical method for grading the cognitive state of patients for the clinician

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どれくらい使われているか、Google Scholarで被引用数を見てみると、

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なんと被引用数79292!!(2019年5月時点)

ここまで汎用されているMMSE、臨床でも「認知症のスクリーニング検査」としてそこら中で日々使われているわけですが、発表から44年が経ち、きちんと原典を読んで使っている方は少ないかと思いますし、どのような対象からどのように認知機能障害を抽出することを目的とした検査なのか正確に把握している人も意外といないのでは、と日常臨床で感じています。

そこで今回はこの原典をぼっちで見てみたいと思います。



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背景:高齢者の認知機能を短時間で評価したい

44年も前の論文ですが、Introductionは短く、たったの3パラグラフで、MMSEを作った背景と本論文の目的が非常に簡潔に記載されています。「Introductionはレビューじゃないので簡潔に!」の見本と言えます。

最初の段落は既存の精神状態評価バッテリーの高齢者で用いる場合の問題点です。精神障害をもつ患者の評価で精神状態の検査は欠かせませんが、WAISをはじめ多くの検査は長時間を要します。しかし高齢者、特にせん妄や認知症を有している高齢者では、検査に協力できるのはわずかな時間なので、既存の検査は高負荷になります。

そこで著者らは5-10分程度ででき、精神状態の中でも「認知機能に限定したminiな」精神症状評価尺度、"Mini-Mental State"(MMS)を作ったとのことです。意外とここはスルーされていますが、"Mental State"の中で、気分や病的体験、思考様式といった他の精神状態を無視し、認知機能だけを評価することを目的としているので、"mini"なんですね。

本論文は、MMSの有効性と信頼性を、206人の「認知症、気分障害、認知機能障害を伴う気分障害(仮性認知症)、躁状態、統合失調症、パーソナリティー障害」患者と63人の健常者を対象として評価しています。と言うことで、この論文でのMMSEの目的は「認知症患者を健常高齢者からふるいわける」ではなく、「精神障害者と健常者を対象に認知機能を評価する手段としてMMSEの有効性を評価する」と言うことになります。

MMSEの内容

MMSEの内容は同論文のappendixに記載されており、表記された順番通りに質問すること、検者は実施にあたってまず患者をリラックスさせ、ラポールを形成し、成功したら褒めるなどして、患者が協力しやすく、破局反応(catastrophic reactions)が生じないようにするよう記載されています。MMSEに限らず、認知機能の検査場面で「患者を緊張させない」と言うのは非常に重要で、緊張具合によって当然パフォーマンスは変化します。被験者本人が本来持つ認知機能を正しく評価するために、このような配慮が重要になります。

MMSEは2つのセクションに別れるとされています。1つ目は口頭言語での反応による、見当識、記憶、注意を評価する部分(21点満点)。2つ目は呼称、口頭および書字命令の理解、自発的な書字作文、複雑図形の模写を評価する部分(9点満点)。計30点満点で、試行時間は考慮しません。注意点として、「2つ目のセクションは読み書きを要するため、重度の視覚障害の場合は大きな字で書くとうまくいくことがある」と記載されています。実臨床としては、単純な視覚・聴覚障害の影響を受けることもそうですが、(MMSEに限らず、ほとんどの検査が言語的な教示を要するために)失語があると本来評価しようと思っている見当識、記憶、注意といった認知領域を適切に評価できない、と言うことも重要な注意点です。

実際にappendixのMMSEを見てみると、11項目の検査を、見当識、記銘、注意と計算、追想、言語(なぜか図形模写も言語に入っている)の5つの認知領域に分けて記載し、最後に合計点と意識レベルを記載するよう求めています。このことから、

MMSE利用の際には
  • 下位項目の出来を評価し、どの認知領域が障害されているか解釈する
  • 意識障害がある場合にその解釈が限定的になることを考慮する

ことを念頭にデザインされたことが伺えます。MMSEは30点満点の得点という定量的な認知機能評価ツールとしての側面が強く残って広く使われていますが、このように定性的な評価を念頭に置いてデザインされているのです。なので、「MMSEの点数だけをみる」行為は、せっかく実施したMMSEの能力の半分も用いていないことになるわけです。

方法:対象に認知症は意外と少ない

この論文では、introductionの最後に挙げられた206人の患者と63人の健常者が以下の2つのサンプルから構成されています。

サンプルA:69例の患者(認知症29例、認知機能障害を伴ううつ病相の気分障害10例、伴わないうつ病相の気分障害30例)と、63例の患者層と年齢が同等の高齢健常者。69人の間はは精神科病院入院時に検査され、うち33例は治療後(認知症は三環系抗うつ薬やフェノチアジンで、気分障害は抗うつ薬やECTで治療)に再検査されています。

サンプルB:137例の入院患者(認知症9例、うつ病装の気分障害31例、宗廟装の気分障害14例、統合失調症24例、薬物乱用を伴うパーソナリティ障害32例、神経症27例)

こうしてみると、この論文の対象では認知症患者はむしろ少ないですね。

この両サンプルから、年齢をマッチさせた解析や有効性、test-retestの信頼性評価のために患者のサブセットを抽出した、と記載されていますが、それ以上の詳細はなく、流石に古い論文だな、という感じがしました。今の論文だとこの部分はかなり詳細に記載することが求められますよね。

結果:本論文の認知症患者はMMSE10点程度とかなり進行期

まず、サンプルAの3つの患者と健常者のMMSEの得点を比較しています。認知症(9.6(5.8))<認知機能障害を伴ううつ病相の気分障害(19.0(6.6))<伴わないうつ病相の気分障害(25.1(5.4))<健常高齢者(27.6(1.7))の順で得点に有意差がついています(カッコ内は各群のMMSE得点の平均(SD))。

さらに3つの患者群で年齢をマッチさせた8例ずつを抽出しても、認知症(6.9(4.7))<認知機能障害を伴ううつ病相の気分障害(18.4(5.7))<伴わないうつ病相の気分障害(26.1(4.4))の順で有意差がついています。

以上の結果から、MMSEは認知症やうつ病による仮性認知症、うつ病、健常高齢者を鑑別する能力がある、としています。

ここで注意しなければならないのは、認知症患者のMMSE得点が非常に低いことです。現在の臨床現場を考慮すると、認知症を鑑別すべき対象のMMSE得点は本論文の認知症患者に比べかなり高く、それこそ MMSE24点前後の患者において認知症を診断しなければならない場面があることに注意が必要です。

次に、サンプルAの患者のうち、治療前後でMMSEを行った群では、認知症では有意な変化は見られませんでしたが、認知機能障害を伴ううつ病相の気分障害(7例、18.3(5.0)から23.4(2.4)に増加)と伴わないうつ病相の気分障害(12例、25.5(5.0)から27.2(3.7)に増加)の群では有意な改善が見られています。

この結果は非常に興味深いものです。うつ病における認知機能障害の話題は昨今も非常に多いですが、この論文ですでにうつ病治療で認知機能障害も改善することが示されています。最も、具体的にどのような治療がどのくらいの期間行われたのか、などの情報がないので、詳細な評価は難しいですが、少なくとも「うつ病に伴う認知機能障害が治療可能な症状である」ことは示唆されています。

ここで突然、頭部外傷、せん妄、うつ病患者の3例のMMSEの経時的な変化のグラフが提示されます。唐突でびっくりしましたが、頭部外傷後やせん妄の通過症候群、うつ病の認知機能障害の改善過程を示したかったのでしょう。ところで頭部外傷やせん妄の患者ってこの論文でリクルートされてましたっけ?(この辺りの適当さに時代を感じます)

さて、MMSEの有用性の評価のために、サンプルAとBのうちでMMSEとWAISを同じ週に実施している症例を抽出し、MMSE得点とWAISの言語性IQおよび動作性IQの相関係数を調べたところ、いずれも有意な相関が見られ、やはりMMSEは有用と結論づけられています。こちらも方法のところでWAISのことが一切触れられていなかった上に、両サンプルから抽出された患者がTableで人数と平均年齢、性別の分布だけが示されているだけで、MMSEやIQの分布すら記載されておらず、解釈が困難です。

そもそもMMSEとWAISには大きな違いがあります。MMSEは基本的には簡単に評価でき、健常者であれば比較的容易に満点が取れ、天井効果が容易に生じます。一方でWAISは難易度の高い下位検査も含まれ、IQは平均が100、標準偏差15で基本的に天井効果がありません。ですので、本論文でMMSEの得点とIQに相関関係があったのは、何かしらの認知機能障害を持ち、あまりMMSEで天井効果の見られなかった精神疾患患者を対象としたからかもしれません。

test-retest reliabilityの評価として、同一検者、別検者での24時間でのretestと28日後の臨床的に安定している患者でのretestの評価をしていますが、いずれも有意な相関が見られていることから、信頼性がある、としています。今なら級内相関係数を用いて検定するでしょうか。

読んでみての雑感

まず、本論文は流石に44年前の論文だけあって、論文での方法、結果の提示の仕方や統計解析の手法に穴があると感じる部分や、現在の実臨床で問題になっているケースに直接適応させるには有益な情報に乏しいのは事実です。

その一方で、44年前の時点から現在に共通する、「高齢者に負担をかけずに短時間で認知機能を評価したい」というモチベーションを形にしたこと、デザイン当初から単純な点数を出すだけでなく、複数の認知機能の領域を評価することを意識していること、意識障害があれば結果が変わるということを想定していることなど、これだけ長い年月が経っても世界中で汎用されている理由が非常によくわかる内容だと感じました。

MMSEのこのような理念をきちんと踏まえて、これからも使っていきたいな、と思いました。

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