
Abstract
認知症の人に見られる行動・心理症状(BPSD)は、認知症に伴う脳機能の低下と環境要因によって生じると言われますが、同じ病気、同じような環境でもBPSDの出方には個人差があります。その個人差の要因として、病前性格にスポットを当てた論文です。DLBとADにおける角疾患では非特異的と言えるBPSDが、病前性格と関与している、という結果に見えます。
認知症の人のケアをする上で、行動・心理症状(BPSD)は避けて通れない道です。BPSDは認知症による脳機能の低下と環境要因によって生じると言われ、その対応にはまず非薬物的対応を行い、それでもどうしても解決しない場合、薬物療法を試みる、というのがガイドライン的な対応になります。
教科書的な理想論を言えば周囲がうまく対応すれば予防できる、抑えることができる、というものですが、同じ疾患で同じようなBPSDが出ても、同じ対応ではうまくいかないことは多々あります。そもそも、同じ疾患、同じような環境にいても、同じBPSDが出るわけではありません。
認知症の人がそれまで歩んできた人生が、当然その人のBPSDの出現の仕方にも影響を与えるわけです。その歩んできた人生の一つの指標として、「病前性格」がどのようにBPSDに関わるか、というテーマの論文が、今回のぼっちJCの題材です。
Tabata K, et al. Association of premorbid personality with behavioral and psychological symptoms in dementia with Lewy bodies: Comparison with Alzheimer's disease patients. Psychiatry Clin Neurosci. 2017 Jun;71(6):409-416.
方法:NEO-FFIって名前、かっこいいなぁ。
方法はいたってシンプル。41名のDLB患者と98名のAD患者を集めて、BPSDと病前性格を評価し、BPSDと病前性格の相関をPearsonの相関係数を用いて調べた上で、BPSDのスコアを従属変数、病前性格のスコアを説明変数として多変量回帰分析を行う、というもの。用いられている評価尺度を簡単に紹介。
Neuropsychiatric Inventory(NPI):患者の介護者から、過去30日間の妄想、幻覚、興奮、抑うつ、不安、多幸、アパシー、脱抑制、易怒性、異常行動の10つのBPSDについて聴取し、頻度・重症度をそれぞれスコア化し、各症状の頻度と重症度を掛け合わせたスコアを各BPSDの強さとして算出するもの。なぜかこの算出したスコアの合計を、BPSD全体の強さとして使うことが多い。研究でBPSD調べると言えば大半がこれっていう尺度。
Cummings JL, et al. The Neuropsychiatric Inventory: comprehensive assessment of psychopathology in dementia. Neurology. 1994 Dec;44(12):2308-14.
NEO Five Faxtor Inventory(NEO-FFI):患者の家族から患者の病前性格を聴取し、12項目の質問に0-4の5段階で回答してもらい、その結果からNeuroticism(神経症傾向), Extraversion(外向性), Openness(開放性), Agreeableness(調和性), Conscientiousness(誠実性)という5つの病前性格の要素をスコア化する、という尺度
Yoshimura K, et al. Reliability and validity of a Japanese version of the NEO Five-Factor Inventory (NEO-FFI): A population-based survey in Aomori prefecture. Jpn. J. Stress. Sci. 1998; 13: 45–53 (in Japanese)
NEO-FFIは私は使ったことがないのですが、5因子人格検査としては世界標準の検査なのだそうです。
結果:いくつかのBPSDは病前性格と関係
まず、DLBに関する結果から。Pearsonの相関係数からは、NEO-FFIの開放性とNPI総スコアおよび不安とが負の相関、誠実性とNPI興奮とが正の相関を認めています。多変量回帰分析からは、開放性とNPI総スコアおよび不安との関係、調和性と妄想との関係、誠実性と興奮の関係が抽出されました。次にADに関して。Pearsonの相関係数からは、NEO-FFIの神経症傾向と抑うつとが正の相関、外交性とアパシーとが負の相関、開放性と易刺激性とが負の相関、調和性と易刺激性とが負の相関を認めています。多変量回帰分析からは、神経症傾向と抑うつとの関係、調和性と興奮、アパシーおよび易怒性との関係が抽出されました。
特異的な症状は病理に、非特異的な症状は病前性格や環境に関係する?
この結果で興味深いなと思ったのは、例えばDLBの幻覚ADでの(主に物盗られ)妄想といった、特異的と言えるBPSDと病前性格との関係は示されず、非特異的な症状と病前性格との関係が示唆されたという点です。こういった疾患特異的な症状はやはり病理と関係する部分が強く、病前性格や環境とは関係なく出現し、そうでない非特異的な症状は全般的な脳機能障害によって病前性格や環境の影響を受けて出現しやすい、というような関係を感じてしまいました。よく、加齢や脳の障害とともに、元々の性格が先鋭化する、と言いますしね。実際に結果で出てきた病前性格とBPSDの関係は、確かに関係ありそうと思えるものが多いですし。このような病前性格とBPSDとの関係は、パーソンセンタードケアのようなBPSDへの介入が有効であることの裏付けにもなるかも知れません。更に言えば、本論文の考察では、このような病前性格とBPSDとの関係を踏まえれば、より良いパーソンセンタードケアに繋げられるのでは、と論じていました。
同じ病気だから同じような症状が出る、同じように対応すればいい、ではなく、当然違う人なのですから、同じ病気でも違う症状が出て、個人を尊重し個別に対応することがやはり大切ですね。
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