進行性核上性麻痺(PSP)の新診断基準2017

142602.png
2017年になり、レビー小体型認知症(DLB)の国際診断基準第3版が発表されたのは各方面でよくアナウンスされていますが、パーキンソン関連疾患である進行性核上性麻痺(PSP)の診断基準も実は2017年に入り、新たに発表されているのは、あまり耳にすることはありません。有病率の違いのせいなのでしょうが、パーキンソン症候群を伴う認知症性疾患として、DLBとの鑑別疾患として挙がる病気として重要な病気です。今日はそんなPSPの診断基準について、2017年に発表された臨床診断基準についての次の論文を見てみます。

Höglinger GU et al. Clinical diagnosis of progressive supranuclear palsy: The movement disorder society criteria. Mov Disord. 2017 Jun;32(6):853-864.


スポンサーリンク


PSPの典型像

PSPの典型像は、これまで広く用いられてきたNINDS-SPSPの診断基準や、難病指定センターで示されている主要症候を満たすものになります。つまり、

  • 垂直方向に眼球運動が障害される
  • 姿勢が不安定でこけやすい、歩行時のすくみや突進、姿勢反射障害が目立つ
  • 無動または筋強剛があり、四肢より体幹に目立つ

というものです。また、画像所見としては、中脳被蓋部の萎縮に伴う、頭部MRI矢状断で見られるハミングバードサインも、教科書的に有名です。

ですが、病理診断でPSPと診断された例で、症状がこのような典型像と異なるという症例が多いことや、初期には前頭葉機能障害だけが目立ち、その脱抑制的な症状から、統合失調症などの内因性精神障害と診断され、その後パーキンソニズムなどが出現し、上記のような症状が出揃って来るケースも知られています。また、ハミングバードサインも、PSP以外の疾患でもハミングバードのように見える症例があったり、PSPでもハミングバード様の萎縮と断言できないようなケースもあり、診断基準の問題点が挙げられていました。

基本的特徴(必須の基準)

ここからは、2017年に発表された診断基準を見ていきます。

基本的特徴では、必須包含基準として3つの項目と、必須の除外基準として7つの臨床所見、2つの画像所見を、状況に応じた除外基準として各種バイオマーカーの所見をあげています。

必須包含基準は、(1)孤発性、(2)PSP関連症候の初発が40歳以降、(3)PSP関連症候が緩徐に進行、という、高齢発症の変性疾患であるという基準です。

必須除外基準は、臨床症候として、(1)ADを示唆するエピソード記憶障害、(2)MSAやDLBを示唆する自律神経障害、(3)DLBを示唆する幻視や認知機能変動、(4)運動ニューロン疾患を示唆する運動障害、(5)脳血管疾患、自己免疫性脳炎、代謝性脳症、プリオン病を示唆する突然発症や段階的進行、急速進行、(6)脳炎の既往、(7)小脳失調、(8)その他の原因による姿勢の不安定が、画像所見として、(1)重度の白質脳症、(2)水頭症、脳梗塞、脳出血、虚血性変化、脳腫瘍、奇形などの構造的異常、が挙げられています。

つまり、基本的特徴としては、高齢発症の変性疾患で、AD、DLB、MSA、脳血管障害、脳炎、腫瘍などの他の疾患を除外する、という内容になっています。

中核的臨床特徴

次に、中核症状がこの論文のTable 2に挙げられています。中核症状は次の大きな4つの領域に分類されます。

  • O:眼球運動障害
  • P:姿勢の不安定性
  • A:アキネジア
  • C:認知障害

さらにこの4領域のどのような症状がよりPSPらしいかで、1(highest), 2(mid), 3(lowest)の3段階に分類されています。例えば、P1は3年以内の繰り返す転倒、P2は3年以内のpull testでの転倒傾向、P3は3年以内のpull testでの後方への2歩を超えるステップ、となっています。

この中で、これまでの診断基準に中核的症状としてあげられてこなかったのが、C:認知障害です。この領域は次の3段階に分けられています。

  • C1:発話・言語障害(非流暢・失文法型の原発性進行性失語または進行性発語失行)
  • C2:前頭葉性の認知/行動の障害
  • C3:皮質基底核症候群(CBS)

これはつまり、前頭側頭葉変性症(FTLD)の進行性非流暢性失語(PNFA)や行動障害型前頭側頭型認知症(bvFTD)、皮質基底核変性症(CBD)と鑑別が困難な臨床像を呈するPSPを拾い上げるために加えられた中核的特徴と言えます。

同論文のTable 4では、後述の支持的特徴も含めた各特徴の詳細な定義が示されています。

支持的特徴

支持的特徴として、4つの臨床所見(CC1-CC4)と2つの画像所見(IF1,IF2)が示されています。レボドパへの反応不良や中脳萎縮など、これまでのPSP診断基準でも挙げられてきた所見になっています。


スポンサーリンク


PSPの診断

病理所見によるDefinite PSP、上記の中核的特徴を中心としたの特徴の組み合わせによるProbable/Possible PSP、Suggestive of PSPの診断基準がTable 5にまとめられています。ここで特徴的なのは、兼ねてからPSPの典型像と言われたタイプ以外のタイプもきちんと明言している点で、以下のように分類されています。

  • PSP with Richardson's syndrome(PSP-RS)
  • PSP with progressive gait freezing(PSP-PGF)
  • PSP with predominant parkinsonism(PSP-P)
  • PSP with prefominant frontal presentation(PSP-F)
  • PSP with predominant ocular motor dysfunction(PSP-OM)
  • PSP with predominant speech/language disorder(PSP-SL)
  • PSP with predominant CBS(PSP-CBS)
  • PSP with predominant postural instability(PSP-PI)

PSP-RSは、リチャードソン症候群と呼ばれていた、兼ねてからのPSPの典型像を呈するものです。PSP-PGFは「すくみ足を伴う純粋無動症(pure alinesia with gait freezing:PAGF)」という、PSPの第3の臨床病型として報告された臨床像を呈するものです。PSPの第2の臨床病型と言われてきたのは、筋強剛や振戦などパーキンソニズムが目立つPSP-Pにあたります。パーキンソニズムや姿勢の不安定性が目立たず、前頭葉機能障害が前景に立ち、初期にはbvFTDと鑑別が困難な臨床像を呈するのがPSP-Fとなります。また、FTLDの分類の変遷と共に、FTLD病理との関連が注目されるようになった原発性進行性失語(PPA)の1型である非流暢・失文法型PPA(nfa-PPA)の病理像の一部はPSPと言われていますが、それにあたるのがPSP-SLになります。また、皮質基底核変性症(CBD)の典型的臨床像である皮質基底核症候群(CBS)を呈する患者の病理像も、CBDは半数程度に過ぎず、残りはADやPSPの病理を持つ患者も多いことが知られていますが、それがPSP-CBSにあたります。

このように、幅広いPSPの臨床像を踏まえた診断基準となっているのが、今回のPSP診断基準となります。

多様な臨床像を取り込んだものの

このように、PSPという病理を持つ患者が示す多様な臨床像もPSPと診断できるようになった今回の診断基準ですが、一方で、例えばPSP-CBSの診断基準を満たす患者では、CBDの診断基準も満たすことになり、単純に症状を列挙して診断基準に当てはめるだけでは、結果としてどの病気と診断すればいいのかわからなくなる、となってしまいます。

そこで重要なことは、やはり各患者さんの全体像を見た時に、典型的なPSP(つまりリチャードソン症候群)に近い様相を呈しているのか、といった視点は重要かと思います。典型像を中心に見据えながら、リチャードソン症候群に近いものの診断基準を満たさない場合に、他の臨床像を呈するPSPの診断基準を満たすか、という視点で診断につなげるために、この診断基準を用いることが大切と感じました。

スポンサーリンク


関連記事・参考文献

レビー小体型認知症(DLB)の新診断基準
同じく2017年、DLBの診断基準も改訂されました。それについてまとめてみました。

2017年発表のPSP診断基準:Höglinger GU et al. Clinical diagnosis of progressive supranuclear palsy: The movement disorder society criteria. Mov Disord. 2017 Jun;32(6):853-864.

NINDS-SPSPの診断基準Litvan I et al.Clinical research criteria for the diagnosis of progressive supranuclear palsy (Steele-Richardson-Olszewski syndrome): report of the NINDS-SPSP international workshop. Neurology. 1996 Jul;47(1):1-9.
スポンサーリンク



人気ブログランキングへ

この記事へのコメント

スポンサーリンク