レム睡眠行動異常症(RBD)の認知症診療における重要性-DLB診断基準改訂を受けて

先日、新しいレビー小体型認知症(DLB)の診断基準が発表されたことを書きました。その中で、レム睡眠行動異常症(REM sleep behavior disorder: RBD)が中核的特徴の一つに繰り上がったことを紹介しました。

今回はそんなRBDについて、認知症診療においてどのようなことに注意すべきか紹介します。

RBDとは?:レム期に認めるパラソムニア

RBDは、多くは恐怖などの強い情動を伴うような鮮明な夢と共に、荒々しい行動異常が出現する、レム期に認めるパラソムニアの一種です。通常、レム睡眠中は骨格筋の筋緊張が低下しているため、体の動きはあまりおこらないのが一般的ですが、この筋緊張を抑制する働きが障害されることで、睡眠中に手足を動かしたり、異常な動作を起こしたりする病気です。

これまで、パーキンソン病やレビー小体型認知症などのレビー小体病、多系統萎縮症といった、シヌクレインという物質の異常で生じる病気で合併率が高いことから、睡眠専門医だけでなく、神経内科医や精神科医にも注目されていた疾患です。

以下に診断基準を挙げます。


睡眠関連疾患国際分類第2版(2005)の診断基準
A. REM sleep without atoniaの存在
持続的もしくは間歇的なオトガイ筋筋活動の過度の亢進、もしくはオトガイ筋または四肢(上肢もしくは下肢)において過度に相動的な筋活動(phasic EMG twitching)が出現

B. 以下の少なくとも1項目
1. 病歴上に睡眠に関連した怪我、あるいは怪我をしてもおかしくないような行動や破壊的な行動がある
2. 睡眠ポリグラフ中に異常なレム睡眠中の行動が記録される

C. レム睡眠関連転換と区別することが容易でない場合、レム睡眠中の脳波にてんかん原性異常波が認められない
D. 睡眠の問題が他の睡眠関連疾患、内科疾患、神経疾患、精神疾患、服薬や薬物使用によって説明されない


このことからわかるように、RBDの診断は、PSGを行って、REM sleep without atonia(RWA)を確認し、その際の行動を記録することが王道になります。

ちなみに、RWAのPSG所見は、McKeith IG, et al. Diagnosis and management of dementia with Lewy bodies: Fourth consensus report of the DLB Consortium. Neurology. 2017 Jun 7.の本文内Figureで紹介されています。

DLB診断への影響:認知症+RBD=DLB

DLB診断基準第3版では、RBDが中核症状、PSGでのREM sleep without atoniaが指標的バイオマーカーとしてあげられています。RBDの診断そのものは上述の通り、PSGでREM sleep without atoniaを確認することが必要であるため、認知症を発症している患者さんで、RBDを正確に診断してしまえば、probable DLBの診断基準を満たしてしまうことになります。これは少し違和感があります。

しかし、実際にこの基準を満たしている場合、幻視、パーキンソニズム、認知機能の変動といった他の中核症状がなくても、シヌクレイン病理を持つ確率が90%以上となるため、probable DLBと診断するに足るのだそうです(もちろん、除外項目などを考慮する必要はありますが)。

参考:Boeve BF et al. Clinicopathologic correlations in 172 cases of rapid eye movement sleep behavior disorder with or without a coexisting neurologic disorder. Sleep Med. 2013 Aug;14(8):754-62.

PSGを考慮するためのスクリーニングは?

このようにDLB診断の上で非常に重要になったRBDですが、DLBを見逃さないためだけに認知症を疑われて受診した方全員にPSGを行うのは現実的ではありません。DLBと診断しきれないけれど、RBDが疑わしい、という患者さんを適切に抽出し、PSGを実施してDLBと診断するのが理想的です。

そこで、RBDを簡便にスクリーニングできる方法が重要になります。そのための3つの方法を次に紹介します。

1. RBD screening questionnaire(RBDSQ)
RBDSQは13個の質問からなる質問表で、日本語版もvalidationされています。5点をカットオフとし、感度88.5%、特異度96.9%と優れた鑑別能を持ちます。

英語原典:Stiasny-Kolster K et al. The REM sleep behavior disorder screening questionnaire--a new diagnostic instrument. Mov Disord. 2007 Dec;22(16):2386-93.

日本語版:Miyamoto T et al. he REM sleep behavior disorder screening questionnaire: validation study of a Japanese version. Sleep Med. 2009 Dec;10(10):1151-4.

2. Single question screen for RBD(RBD1Q)
さらに興味深いのが、たった1つの質問でRBDをスクリーニングするという方法。"Have you ever been told, or suspected yourself, that you seem to 'act out your dreams' while asleep (for examplem punching, flailing your arms in the air, making running movements, etc)?"という質問がそれです。残念ながら日本語版はまだvalidationされていませんが、日本語訳するならば、「睡眠中に夢の中の行動を実演している(例えば、殴る、腕を空中で揺り動かす、あるいは疾走動作)と言われたり、自分自身でそう疑ったりしたことがありますか?」となるでしょうか。RBDの症状を端的に表した質問ですね。この質問で、特発性RBDが感度93.8%、特異度87.2%で鑑別できたそうです。

参考文献:Postuma RB et al. A single-question screen for rapid eye movement sleep behavior disorder: a multicenter validation study. Mov Disord. 2012 Jun;27(7):913-6.

3. 寝言を確認する
実は、日本人の高齢夫婦は、欧米と比較して、夫婦別室で寝ていることが多いため、上記2つのスクリーニングではRBD特定の感度が低いそうです。そこで日本から、認知症患者におけるDLBスクリーニングとして、"Sleep talking questionnaire"というものが発表されています。

これは認知症患者の家族に「患者は睡眠中に話しますか?」という質問を行い、これに対して「はい」と回答されたら、3つの下位質問に答えてもらう、というものです。この質問で、DLBと他の認知症との鑑別能は、感度79.4%、特異度95.8%とのことです。

この質問自体は、RBDのスクリーニングではなく、DLBのスクリーニングとして評価されていますが、DLBに合併しやすいRBDが背景に抽出されている可能性が高いでしょう。実際に行動しているか、ではなく、話しているか、だけの評価なので、別室で寝ていても気づきやすいのもポイントですね。認知症の方にこの質問をして該当すれば、PSGを考慮し、DLBの診断につなげるのも一つの手かもしれません。

参考文献:Honda K et al. The usefulness of monitoring sleep talking for the diagnosis of Dementia with Lewy bodies. Int Psychogeriatr. 2013 May;25(5):851-8.

認知症診療における睡眠障害評価の重要性

以上のように、今回のDLB診断基準改訂を受けて、RBDを疑い、PSGで診断するという、RBDのきちんとした診断を抑えることで、認知症患者さんの中でのDLBを正しく抽出しやすくなったのではないかと思います。一方で、そもそも認知症の診断がきちんとできているか、脳梗塞・脳出血、脳腫瘍など、その他の病態の合併がきちんと除外できているか、と言った根本的な認知症診療ができていることが、そのベースラインにあることを心がける必要があります。そのことを忘れてしまうと、DLBという誤診を乱発してしまうことにもつながります。

また、PSGができる施設の数はそれなりにありますが、睡眠時無呼吸症候群は対応できるが、RBDは診断できない、という施設も多く、RBDを正しく診断できる施設、となると限られてくるため、すぐにPSGをお願いするのではなく、RBDをスクリーニングしてから適切な施設にPSGを依頼する、というようにすることも重要になります。

いずれにせよ、認知症おける睡眠障害の評価は、これまで以上に重要になりそうです。
RBDを含むパラソムニアを始め、睡眠医学に関して、今流行りの「極論で語る睡眠医学」という本が非常にわかりやすくオススメです。

初期研修医、後期研修医、睡眠が専門でない他科医師、メディカルスタッフ向けで、専門的な内容をわかりやすく紹介されています。堅苦しくなく、一気に通読できてしまうのもとても素敵です。

ただ、認知症診療が専門の私にとっては、RBDに関する記載が、パラソムニアの中で少しだけ出てきただけ(むしろレストレスレッグズ症候群の方が大きく誌面を割かれていたことが意外でした。畑が違えば疾患の重要度が変わる、という実例を見た気がします。)だったのが残念でした。

DLBの診断基準改訂を受けて、この本の次の改訂ではRBDの記載量をもっと増やしていただけたら、私のような立場の医師にはとてもありがたいと感じました。

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