この本の一貫したテーマは、医学生、医療者ならおそらく自然となんとなく理解している、医学的な接頭辞・接尾辞をできる限り多く覚え、それを連結する方法を知ることで、効率よく医療英単語を覚えよう、ということに尽きます。
例えば、「脳」を表す「encephal」に、「炎症」を表す接尾辞の「itis」をつなげることで、「脳炎:encepalitis」ができる、といったところです。
当たり前といえば当たり前ですが、なんとなく経験的に身につけていっているこのような知識を、意識的に覚えていけ、と、医療関係の英単語に特化して提示し続ける本は確かにあまり見かけなかったなと感じました。
もう一つ、この本の大きな特徴は、タイトルの通り、「1週間で」この本を一通り読ませるための構成を取っていることです。全部で7つの章で構成されていて、1日1章、7日間で読む、という構成です。
各章の冒頭と最後が小説形式になっていて、全体的に堅苦しくなく、気楽に読めるのが良いですね。トシという日本人研究者が、海外のラボで、美人な同僚のソフィアに手取り足取り医療英単語の構造を解説してもらいながら、毎日勉強するリア充な様子を、現実の研究者にこんな良いことあるわけないだろ!と心の中で叫びながら読む羽目になるので、
ただ、私自身が今の時点で読んで、デメリットに感じた点が幾つかありました。
一つは、すでに脳科学を専攻している身である私にとって、「salpingooophorectomy」という単語を提示されても、今更覚える気もない、時間の無駄・・・でもなかったです、世の中にoが3つも続く単語があるんだという豆知識を得られましたね。いや、でも、この単語が出てくるまでのくだりに、数ページが割かれているのは、苦痛でした。なので、この本に最も適した読者は、医学科の学部生や、USLMEなどを受験しようと考えている医師の方、総合診療科的な医師の方になるのかなぁと感じました。リア充ならなおいいかもしれません。
次に、堅苦しくなく気楽に読める形式になっている反面、もう少し接頭辞や接尾辞を体系的にまとめる部分を用意した方が、1度読んだ後に再度参照しやすくていいのに、という点です。もちろん、ところどころでそういったものをまとめる表はあるんですけどね。何度も繰り返し読んで、自然と覚えろ、という意図なのかもしれませんが・・・。
最後に、結構分厚いので、持ち運ぶのにかさばる、という点です。単語を覚えるための本と考えると、携帯して隙間時間に読む、というニーズもあるように思いますが、400ページ弱のこの本は、私が普段使っているカバンでの持ち運びには適さなかったです。
また、ところどころ解剖図などが載っているのですが、脳を専門にしている人間からすると、脳の解剖図がやや不正確であることが気になりました。例えば、26ページの脳の機能部位に関する模式図に関して言えば、ほぼ一次視覚野に一致して「seeing」と書いてあるのはいいのですが、「hearing」はおおよそ中側頭回に書いてあって、どうせならきちんとheschl回あたりに書けばいいのに!と思ったり、前頭葉に大雑把に上から順に「writing, thinking, saying」と書かれているのも、せめてもうちょっとwritingをexnerの書字中枢あたりにして、sayingも中心前回からBroca野あたりにかけて書けばいいのに!と、マニアックなツッコミをしたくなります。
こういうマニアックなところだけでなく、82ページでは、脳幹の橋(pons)のところに、思いっきり延髄(medulla oblongata)と書かれているあたりは、教育上良くない誤植だと思ってしまいました。あまり図の出てこなかった脳領域でこんな感じだったので、他の記述についても、自分が専門でないから気づいていない間違いがあるのではないか、という不安が若干ありました。
なんだかネガティブなレビューになってしまった印象はありますが、上述したように、医学生などが医療英単語における接頭辞・接尾辞を多く覚え、その連結方法を知り、英単語を効率良く覚えるのには適した本だと感じました。個人的に気になる続編も出ているので、また続編も読んでみたいと思います。
ちなみに、小説のストーリーですが、研究者にあるまじきリア充さだけでなく、途中からハラハラドキドキの展開?にもなったりしますが、小説のストーリーだけ読むのではなく、きちんと英語の勉強の部分を読むよう自分を律する力を養うことも、この本でできるかもしれません。
この記事へのコメント